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2013年11月28日 (木)

11月30日の曲目解説

(11月30日演奏の曲目解説です)

 今日のプログラムを思い立った最初のきっかけは、メンデルスゾーンのニ長調のソナタを演奏したかったということでした。近年再評価されているメンデルスゾーンの作品ですが、同時期の巨匠として評価がありつつも日本では少々地味なシューマン。歴史的なこの二人、ドイツ音楽のムーブメントに「ロマン派」の潮流を決定づけた、彼ら天才たちの交流は、知るほどに感動的です。そしてシューマンの多いとはいえないチェロのためのレパートリーから2曲、またメンデルスゾーンからはソナタほか1曲をチョイスし、プログラムとしました。

第一部 ロベルト・シューマン(1810−1856)の作品より

 シューマンは、チェロのソロと伴奏のための曲は、2曲しか書いていないといわれています。そのうち一曲が、本日2曲めの「民謡風の5つの小品」であり、もう一曲は、ハイドン、ドヴォルザークとともにチェロの3大協奏曲に数えられているチェロ協奏曲です。そんなことはないだろうと思われるかもしれませんが、チェロでよく弾かれる本日の一曲め「アダージョとアレグロ」は、もともとホルンとピアノのために書かれた曲であり、またこれもチェロで弾かれることが多い作品73の「幻想小曲集」は、クラリネットのためのものです。後者は、チェロのほかヴァイオリン、ヴィオラ他様々な楽器で弾かれることもあります。
 最初はメンデルスゾーンにあわせて、若干消去法的に組んだシューマンプログラムでしたが、曲を知っていくとともにその深い魅力に魅入られるようになってきました。これらの曲が作成された時期は、シューマンの多昨期と呼ばれる時期であり、彼の生涯においてインスピレーションの喜びにみちた比較的健康な時期だったのでしょう。普段は全体的に陰影の目立つシューマンの曲ですが、この時期の、それでいながらも溢れるエネルギーと明るさが、その魅力をさらに磨いているのかもしれません。

1.アダージョとアレグロ 作品70 (1849年)

 ホルンのソロの為に書かれただけあって、飛躍の多いメロディーが特徴です。メロディーは魅力的ですが、音域の変化が激しく、チェロで弾くと演奏のビジュアルも楽しみの一つかもしれません。
 曲は、古典的なシンフォニア、序曲といったものを彷彿とさせる形式、オーソドックスなカデンツ、ソロとピアノのソナタ的なやり取りでがっちりと作りながら、個性をしっかり出している、さすが巨匠とうならせる小品です。全曲、緩急をつけながら通して演奏されます。

全体で緩-急-緩-急という構成で、楽譜には、速度標語がイタリア語ではなく、ドイツ語で表現されています(訳の稚拙さはご勘弁)。


・緩 Langsam,mit innigem Ausdruck – sehr gebunden 情感を込めてゆっくりと。
・急 Rasch unt feurig 力強く早く。
・緩 Etwas ruhiger すこし静かに。
・急 (Tempo I 最初の急の部分に戻る)

大河の流れのように、怒濤のごとくコーダを迎えます。

2.民謡風の5つの小品 作品102 (1849年)

 数少ないシューマンのチェロソロのために書かれた曲「民謡風」、これをレパートリーとすることの喜びを、今回図らずも知ることとなりました。シューマンといえば、シューベルトと並ぶ代表的なリート(ドイツ歌曲)作曲家です。そのシューマンは、チェロという楽器にいったい何を求めたのでしょうか。その大きな答えのひとつがここにあるように思います。
 これら5曲の小品、ソナタ風にいえば楽章は、それぞれに器楽的なメロディーであり、ピアノとチェロとのデュオでありながら、背景には、まさに民謡風な打楽器、管楽器が聞こえてきそうな遠い余韻を持っています。これは、シューマンがチェロを通して表現したリートあるいは小宇宙と言えるのかもしれません。曲には速度記号というより、表意的なドイツ語が冒頭に書いてあります。一曲めの副題としてついているラテン語の「Vanitas vanitatum」直訳で「空の空」、これ関するエピソードなどはっきりしたことはわかっていません。宗教的でもあり、禅問答的でもある。みなさんは曲を聴いてなにかを感じられたでしょうか。
 5曲通してお聞きください。

  I ”Vanitas vanitatum” Mit Humor なんと空しい(?)しかしユーモアを持って。
  II Langsam ゆっくり
 III Nicht schnell, mit viel Ton zu spielen 急がず、豊かな音で弾きなさい
 IV Nicht zu rasch 早すぎないように
  V Stark und markiert 力強く際立たせて

第二部 フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809−1847)の作品より

 メンデルスゾーンといえば、皆さんはどんな曲を思い浮かべますか?たとえば、結婚行進曲、春の声、歌の翼、あるいはヴァイオリンコンチェルト、交響曲「イタリア」。メンデルスゾーンの印象は「裏切らない」。裏切らず明快、軽快、壮大、憂鬱。明るい感情も暗い感情もどちらも裏切らずに、素直に、そして天才的に音楽に表現する。ゲーテがモーツァルトを越える天才と評価した彼には、二つの大きな暗い影がありました。ひとつは根強かったユダヤ人差別であり、もう一つは遺伝的な病気によるといわれる早逝。
 これほどの天才が現代になってやっと、よりふさわしい評価がなされてきているのです。

3.協奏的変奏曲ニ長調 作品17 (1829年)

 若かりしメンデルスゾーン。ヨーロッパ中を駆け巡りながら、今に残る名曲を発表し、名声を勝ち取っていく、そんな時期が始まろうとしている20歳。
 メンデルスゾーンの弟もチェリストであったといいますが、このかわいらしい変奏曲の小品に協奏的という題名がついているのは、見かけによらないテクニカルなメンデルスゾーン自身によるピアノパートによるところも大きいように思えます。あるいは兄弟で楽しむために書かれたのかもしれません。
 ピアノによる主題の提示、それをチェロとのDuoで壮大に、かつチャーミングに変奏されていきます。
 主題、第一変奏から、第八変奏、そしてコーダと一気に演奏されます。

4.チェロソナタ第二番ニ長調 作品58 (1843年)

 弟パウルやチェロの名手ピアッティ(チェリストに取っては難しいエチュードの作曲者として有名ですが)の助言によって完成されたチェロソナタ第二番は、まさに裏切らないメンデルスゾーンを体現しています。リストやショパンの向こうを張る希代のピアニストでもあったメンデルスゾーンの本領発揮と言えるピアノパート、そして優雅かつ壮麗なチェロパートの響宴を楽しんでください。
 まるで風が駆け抜けるような、全4楽章。お楽しみください。

I. Allegro assai vivace 快速に、きわめて快活に(8分の6拍子)
II. Allegretto scherzando 少々早めに、若干おどけた風に(4分の2拍子)
III. Adagio (attaca) -- ゆっくりと(4分の4拍子、間を空けずに次の楽章へ)
IV. Molto Allegro e vivace 非常に早く、そして快活に(4分の4拍子)

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コメント

シューマンのアダージョとアレグロが私は大好きです。

一度演奏してみたいなと思う憧れの1曲です。

そのためには、毎日のスケール練習が欠かせませんが最近チェロ弾けてません。

遅くなりましたが、chiakiさん、コメントありがとうございます。

アダージョとアレグロはとても楽しく弾くことができました。
本番を終えると、曲が別な顔を見せてくれます。僕もいっそう好きになりました。

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